判例

H04.02.27 第一小法廷・判決 平成1(オ)1668 所有権移転登記抹消登記手続(第46巻2号112頁)

判示事項:

一 共同抵当の目的とされた不動産の売買契約が詐害行為に該当する場合に抵当権が消滅したときの取消しの範囲及び原状回復の方法

二 共同抵当の目的とされた不動産の売買契約が詐害行為に該当する場合に抵当権が消滅したときの価格賠償の額

要旨:

一 共同抵当の目的とされた不動産の全部又は一部の売買契約が詐害行為に該当する場合において、詐害行為の後に弁済によって右抵当権が消滅したときは、詐害行為の目的不動産の価額から右不動産が負担すべき右抵当権の被担保債権の額を控除した残額の限度で右売買契約を取り消し、その価格による賠償を命ずるべきである。

二 共同抵当の目的とされた不動産の全部又は一部の売買契約が詐害行為に該当する場合に右抵当権が消滅したときにおける価格賠償の額は、詐害行為の目的不動産の価額から、共同抵当の目的とされた各不動産の価額に応じて抵当権の被担保債権額を案分して詐害行為の目的不動産について得られた額を控除した額である。



主    文

     原判決中上告人ら敗訴部分を破棄する。
     右部分につき本件を福岡高等裁判所に差し戻す。
         

理    由

 上告代理人緒方節郎の上告理由第一点について
 一 原審の確定した事実の概要は、次のとおりである。(1) 被上告人は、訴外Aに対し、昭和五七年五月二七日当時合計二三九五万五六三四円の債権を有し、その後その債権額は約二〇〇〇万円となつた。(2) Aは、多額の債務を負担していたところ、他の債権者を害することを知りながら、右同日、上告人株式会社田代組(以下「上告会社」という。)に対し、原判決別紙不動産目録1記載の(一)(二)の不動産(以下、同目録記載の不動産については、同目録の番号をもつて「本件(一)(二)物件」等と表示する。)を代金三五〇〇万円で、上告会社の代表者である上告人Bに対し、本件(三)ないし(九)物件ほか二筆の土地を代金一〇〇〇万円で、それぞれ売り渡した。右各不動産については、同月二八日、上告人Bへの所有権移転登記が経由された上、このうち本件(一)(二)物件につき、同年一一月一日、上告会社への所有権移転登記が経由された。(3) 右各売買契約当時、本件(一)(二)(五)(六)(八)物件を共同抵当の目的として、訴外徳島信用金庫を根抵当権者とする極度額三〇〇〇万円の根抵当権設定登記が経由されていたが、同年六月一一日その被担保債権三〇〇〇万円が弁済され、右根抵当権設定登記の抹消登記がされた。
 二 本訴において、被上告人は、予備的請求として、(1) 詐害行為取消権に基づき、上告会社とAとの間の本件(一)(二)物件の売買契約を取り消し、上告会社に対し、本件(一)(二)物件につき同上告人が経由した各所有権移転登記の抹消登記手続をすることを求め、上告人Bに対し、右取消しにより本件(一)(二)物件の所有権がAに復帰することを前提として、債権者代位権に基づき、本件(一)(二)物件につき同上告人が経由した各所有権移転登記の抹消登記手続をすることを求めるとともに、(2) 詐害行為取消権に基づき、上告人BとAとの間の本件(三)ないし(九)物件の売買契約を取り消し、同上告人に対し、本件(三)ないし(九)物件につき同上告人が経由した各所有権移転登記の抹消登記手続をすることを求めた。
 三 原審は、右事実関係の下において、被上告人の右予備的請求に関し、右各売買契約は詐害行為に該当するとした上、右各不動産の価額を確定することなく、上告人Bが買い受けた本件(三)ないし(九)物件ほか二筆の土地の売買代金額(一〇〇〇万円)は前記根抵当権の被担保債権額(三〇〇〇万円)を下回るから、本件(三)ないし(九)物件は取消しの対象とならないが、上告会社の買い受けた本件(一)(二)物件の売買代金額(三五〇〇万円)は、右被担保債権額を上回り、その差額は、取消権の基礎となる被上告人の債権額を下回るから、本件(一)(二)物件全部を取消しの対象として、本件(一)(二)物件自体の回復を認めるのが相当であるとして、(2)の請求を棄却し、(1)の請求を認容した(なお、原判決中(2)の請求を棄却した部分につき、被上告人は上告せず、右部分は確定した。)。
 四 しかしながら、原審の右詐害行為取消しの範囲及び方法に係る判断は、是認することができない。その理由は次のとおりである。
 共同抵当の目的とされた数個の不動産の全部又は一部の売買契約が詐害行為に該当する場合において、当該詐害行為の後に弁済によつて右抵当権が消滅したときは、売買の目的とされた不動産の価額から右不動産が負担すべき右抵当権の被担保債権の額を控除した残額の限度で右売買契約を取り消し、その価格による賠償を命ずるべきであり、一部の不動産自体の回復を認めるべきものではない(最高裁昭和三〇年(オ)第二六〇号同三六年七月一九日大法廷判決・民集一五巻七号一八七五頁、同六一年(オ)第四九五号同六三年七月一九日第三小法廷判決・裁判集民事一五四号三六三頁参照)。
 そして、この場合において、詐害行為の目的不動産の価額から控除すべき右不動産が負担すべき右抵当権の被担保債権の額は、民法三九二条の趣旨に照らし、共同抵当の目的とされた各不動産の価額に応じて抵当権の被担保債権額を案分した額(以下「割り付け額」という。)によると解するのが相当である。
 そうすると、前示事実関係によれば、Aと上告会社との間の本件(一)(二)物件の売買契約は詐害行為に該当し、かつ、右売買契約当時本件(一)(二)物件及び本件(五)(六)(八)物件を共同抵当の目的として設定されていた根抵当権が、その後その被担保債権三〇〇〇万円が弁済されたことにより消滅し、根抵当権設定登記の抹消登記がされたというのであるから、右被担保債権額三〇〇〇万円を本件(一)(二)物件の価額と本件(五)(六)(八)物件の価額に応じて案分して、本件(一)(二)物件が負担すべき割り付け額を算出した上、本件(一)(二)物件の価額から右割り付け額を控除した残額の限度で、上告会社に対し、その価格賠償を命ずるべきところ、これと異なる見解に立って、Aと上告会社との間の本件(一)(二)物件の売買契約の全部の取消しを認め、上告人両名に対し、それぞれ、本件(一)(二)物件につき順次経由された各所有権移転登記の各抹消登記手続をすることを命じた原判決には、民法四二四条の解釈を誤つた違法があって、この違法が判決の結論に影響を及ぼすことは明らかであり、ひいて審理不尽の違法があるものといわなければならない。論旨は理由があり、原判決中上告人ら敗訴部分は破棄を免れない。そして、右部分については、本件(一)(二)(五)(六)(八)物件の価額等取消しの範囲につき更に審理を尽くさせる必要があるから、本件を原審に差し戻すこととする。
 よって、その余の論旨に対する判断を省略し、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    大   内   恒   夫
            裁判官    大   堀   誠   一
            裁判官    橋   元   四 郎 平
            裁判官    味   村       治