判例 

平成14年01月31日 第一小法廷判決 平成8年(行ツ)第42号 児童扶養手当資格喪失処分取消請求事件

要旨:

児童扶養手当の支給対象児童を定める児童扶養手当法施行令(平成10年政令第224号による改正前のもの)1条の2第3号の「(父から認知された児童を除く。)」との括弧書部分の法適合性

主    文

       原判決を破棄する。
       被上告人の控訴を棄却する。
       控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。
         

理    由


 上告代理人三住忍,同多田実,同横田保典,同福井英之の上告理由について
 1 児童扶養手当法(以下「法」という。)4条1項は,児童扶養手当の支給要件として,都道府県知事は次の各号のいずれかに該当する児童の母がその児童を監護するとき,又は母がないか若しくは母が監護をしない場合において,当該児童の母以外の者がその児童を養育するときは,その母又は養育者に対し,児童扶養手当を支給するとし,支給対象となる児童として,「父母が婚姻を解消した児童」(1号),「父が死亡した児童」(2号),「父が政令で定める程度の障害の状態にある児童」(3号),「父の生死が明らかでない児童」(4号),「その他前各号に準ずる状態にある児童で政令で定めるもの」(5号)を規定している(ここに規定する場合を含め,法にいう「婚姻」には,婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある場合を含むものとされている(法3条3項)。以下,本判決においても同じ。)。そして,児童扶養手当法施行令(平成10年政令第224号による改正前のもの。以下「施行令」という。)1条の2は,法4条1項5号に規定する政令で定める児童として,「父(母が児童を懐胎した当時婚姻の届出をしていないが,その母と事実上婚姻関係と同様の事情にあった者を含む。以下次号において同じ。)が引き続き1年以上遺棄している児童」(1号),「父が法令により引き続き1年以上拘禁されている児童」(2号),「母が婚姻(婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある場合を含む。)によらないで懐胎した児童(父から認知された児童を除く。)」(3号),「前号に該当するかどうかが明らかでない児童」(4号)を規定している。
 2 原審の適法に確定したところによれば,上告人は,婚姻によらないで子を懐胎,出産して,これを監護しており,施行令1条の2第3号に該当する児童を監護する母として平成3年2月分から児童扶養手当の支給を受けていたが,同5年5月12日,子がその父から認知されたため,被上告人は,これにより児童扶養手当の受給資格が消滅したとして,同年10月27日付けで児童扶養手当受給資格喪失処分(以下「本件処分」という。)をしたというのである。
 3 上記事実関係の下で,原審は,次のとおり判断し,本件処分の取消しを求める上告人の請求を認容した第1審判決を取り消して,上告人の請求を棄却した。
 (1) 施行令1条の2第3号は,「(父から認知された児童を除く。)」との括弧書部分(以下「本件括弧書」という。)を含め,全体として児童扶養手当支給の積極要件である支給対象となる児童を定めた規定であって,本件括弧書が独立した児童扶養手当支給の消極要件を定めたものとはいえない。同号の規定のうち本件括弧書のみを取り出して,それを無効として本件処分を取り消すことは,母が婚姻によらないで懐胎した児童(以下「婚姻外懐胎児童」という。)であって父から認知されていないものを児童扶養手当の支給対象とすることを一体として定めた同号の規定の趣旨に反し,法及び施行令が児童扶養手当の支給対象として規定していない父から認知された婚姻外懐胎児童についても児童扶養手当の支給対象に含める法令が存在するものとし,そのような法令を適用して本件処分を取り消すことと同一の結果となり,立法府又は政令制定者の権限を侵すことになるから,許されない。
 (2) のみならず,本件括弧書を設けたことは,憲法に違反するものでもなく,法の委任の範囲内である。法は,法4条1項1号ないし4号に規定する児童に準ずる児童の中から児童扶養手当の支給対象児童の類型を指定することを政令制定者の裁量にゆだねているところ,法4条1項2号及び4号は,父が存在しないため父による扶養を受けることができない類型を定めたものであり,施行令1条の2第3号は,これに準ずるものとして規定されたと解される。父の不存在を指標として児童扶養手当の支給対象となる児童の範囲を画することは,それなりに合理的なものということができ,その反面として,父の不存在という指標に該当する事実がなくなった場合には,類型的に児童扶養手当の支給対象とする必要性がなくなったものとすることも,それなりに合理的なものということができる。本件括弧書は,帰するところ父の不存在という指標に該当する事実を規定したものであり,本件括弧書を設けたことは,立法府ないし政令制定者の裁量の範囲内に属するものと解され,違憲,違法なものとはいえない。
 4 しかしながら,原審の上記判断は,是認することができない。その理由は次のとおりである。
 (1) 施行令1条の2第3号の規定は,婚姻外懐胎児童を児童扶養手当の支給対象児童として取り上げた上,認知された児童をそこから除外するとの明確な立法的判断を示していると解することができる。そして,このうち認知された児童を児童扶養手当の支給対象から除外するという判断が違憲,違法なものと評価される場合に,同号の規定全体を不可分一体のものとして無効とすることなく,その除外部分のみを無効とすることとしても,いまだ何らの立法的判断がされていない部分につき裁判所が新たに立法を行うことと同視されるものとはいえない。したがって,本件括弧書を無効として本件処分を取り消すことが,裁判所が立法作用を行うものとして許されないということはできない。
 (2) そこで,政令制定者が施行令1条の2第3号において本件括弧書を設けたことが,法の委任の範囲を超えたものということができるか否かについて検討する。
 法は,父と生計を同じくしていない児童が育成される家庭の生活の安定と自立の促進に寄与するため,当該児童について児童扶養手当を支給し,もって児童の福祉の増進を図ることを目的としている(法1条)が,父と生計を同じくしていない児童すべてを児童扶養手当の支給対象児童とする旨を規定することなく,その4条1項1号ないし4号において一定の類型の児童を掲げて支給対象児童とし,同項5号で「その他前各号に準ずる状態にある児童で政令で定めるもの」を支給対象児童としている。同号による委任の範囲については,その文言はもとより,法の趣旨や目的,さらには,同項が一定の類型の児童を支給対象児童として掲げた趣旨や支給対象児童とされた者との均衡等をも考慮して解釈すべきである。
 法は,いわゆる死別母子世帯を対象として国民年金法による母子福祉年金が支給されていたこととの均衡上,いわゆる生別母子世帯に対しても同様の施策を講ずべきであるとの議論を契機として制定されたものであるが,法が4条1項各号で規定する類型の児童は,生別母子世帯の児童に限定されておらず,1条の目的規定等に照らして,世帯の生計維持者としての父による現実の扶養を期待することができないと考えられる児童,すなわち,児童の母と婚姻関係にあるような父が存在しない状態,あるいは児童の扶養の観点からこれと同視することができる状態にある児童を支給対象児童として類型化しているものと解することができる。母が婚姻によらずに懐胎,出産した婚姻外懐胎児童は,世帯の生計維持者としての父がいない児童であり,父による現実の扶養を期待することができない類型の児童に当たり,施行令1条の2第3号が本件括弧書を除いた本文において婚姻外懐胎児童を法4条1項1号ないし4号に準ずる児童としていることは,法の委任の趣旨に合致するところである。一方で,施行令1条の2第3号は,本件括弧書を設けて,父から認知された婚姻外懐胎児童を支給対象児童から除外することとしている。確かに,婚姻外懐胎児童が父から認知されることによって,法律上の父が存在する状態になるのであるが,法4条1項1号ないし4号が法律上の父の存否のみによって支給対象児童の類型化をする趣旨でないことは明らかであるし,認知によって当然に母との婚姻関係が形成されるなどして世帯の生計維持者としての父が存在する状態になるわけでもない。また,父から認知されれば通常父による現実の扶養を期待することができるともいえない。したがって,婚姻外懐胎児童が認知により法律上の父がいる状態になったとしても,依然として法4条1項1号ないし4号に準ずる状態が続いているものというべきである。そうすると,施行令1条の2第3号が本件括弧書を除いた本文において,法4条1項1号ないし4号に準ずる状態にある婚姻外懐胎児童を支給対象児童としながら,本件括弧書により父から認知された婚姻外懐胎児童を除外することは,法の趣旨,目的に照らし両者の間の均衡を欠き,法の委任の趣旨に反するものといわざるを得ない。
 (3) 原判決は,法4条1項2号の「父が死亡した児童」及び4号の「父の生死が明らかでない児童」は,父が存在しないため父による扶養を受けることができない類型を定めたものであり,施行令1条の2第3号は,本件括弧書を含めてこれに準ずるものとして規定されたものであるとし,父の認知によって受給資格が失われるのは,法4条1項2号及び4号により支給対象とされた児童について養父の出現や父の生存の確認によって父の不存在という事実がなくなれば父が扶養義務を尽くすか否かにかかわらず児童扶養手当の支給が打ち切られるのと同様であるとする。しかしながら,上記各号に定める父の死亡や父の生死不明も,単なる法律上の父の不存在ではなく,世帯の生計維持者としての父の不存在の場合を類型化したものということができるのであり,上記各号の場合に養父の出現や父の生存の確認によって世帯の生計維持者としての父の不存在の状態が解消されたとしてその受給資格を喪失させることと,認知により法律上の父が存在するに至ったとの一事をもって受給資格を喪失させることとを同一視することはできないというべきである。
 そして,このように解することは,事実上の婚姻関係にある父母の間に出生した児童が,事実上の婚姻関係の解消によって法4条1項1号の支給対象児童となった場合において,その後に父の認知があったとしても,その受給資格に消長を来さないと解されていることとも整合する。
 5 以上のとおりであるから,施行令1条の2第3号が父から認知された婚姻外懐胎児童を本件括弧書により児童扶養手当の支給対象となる児童の範囲から除外したことは法の委任の趣旨に反し,本件括弧書は法の委任の範囲を逸脱した違法な規定として無効と解すべきである。そうすると,その余の点について判断するまでもなく,本件括弧書を根拠としてされた本件処分は違法といわざるを得ない。
 以上によれば,原審の前記判断には,法令の解釈適用を誤った違法があり,その違法は判決に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は,この趣旨をいうものとして理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,前記説示によれば,上告人の請求を認容した第1審判決は,結論において是認することができるから,被上告人の控訴を棄却すべきである。
 よって,裁判官町田顯の反対意見があるほか,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
 裁判官町田顯の反対意見は,次のとおりである。
 私は,多数意見が本件括弧書は法の委任の範囲を逸脱した違法な規定として無効であると解することに,賛成することができない。その理由は,次のとおりである。
 多数意見は,法が4条1項各号で規定する児童は世帯の生計維持者としての父による現実の扶養を期待することができないと考えられる児童を支給対象児童として類型化しているものと解し,婚姻外懐胎児童は世帯の生計維持者としての父がいない児童であり,認知によって世帯の生計維持者としての父が存在する状態になるわけでもないから,父から認知された婚姻外懐胎児童を支給対象児童としない本件括弧書は法の委任の趣旨に反し,無効であるとする。
 しかし,児童扶養手当の制度は,多数意見も指摘するとおり,死別母子世帯には母子福祉年金が支給されていたところ,生別の場合も,死別の場合と同様,これにより児童の経済状態が悪化することは異ならないので,死別母子世帯との均衡から,生別母子世帯に対しても同様の施策を講ずることを主眼に創設されたものであり,かつ,これと同視することができる状態にある児童である@父が死亡した児童,A父が一定の障害の状態にある児童(事故,疾病等により父が障害者となることも少なくない。)及びB父の生死が明らかでない児童を支給対象児童として明記し,これらに準ずる状態にある児童で政令で定めるものも支給対象児童とすることができるものとしたものである。法が世帯の生計維持者としての父のいない児童すべてを支給対象児童とするものではないことは,その文言上からも明らかであり,また,このことを前提に,法の議決に当たり衆議院の社会労働委員会が,政府は父と生計を同じくしていないすべての児童を対象として児童扶養手当を支給するよう措置することを求めていること(付帯決議が法的効力を持つものでないことは,いうまでもない。)によっても裏付けることができる。父と生計を同じくしていない児童のすべてではなく,父母の離婚等その児童の経済状態が悪化する特別の事情のある児童に限って児童扶養手当を支給する社会保障立法が,憲法に反するものでないことは,最高裁昭和51年(行ツ)第30号同57年7月7日大法廷判決・民集36巻7号1235頁に照らし明らかである。これを,多数意見のように,法は世帯の生計維持者としての父がいない児童を類型化して支給対象児童としているものと解すると,その一つの典型である婚姻外懐胎児童について,法が4条1項に列記しないことの説明が困難と思われる。
 このように解すべきものとすれば,内閣は,法4条1項5号の委任に基づき,政令を定める場合に,婚姻外懐胎児童を支給対象児童とすることを義務付けられているものではない。同号が同項1号から4号までに準ずる状態にある児童として政令に定めるものを支給対象児童とすると包括的,抽象的に定める趣旨は,どのような状態にある児童を同項1号から4号までに準ずる状態にあるとして政令に定めるかを,政令の制定権者である内閣の裁量にゆだねているものというべきである。そして,内閣が婚姻外懐胎児童を支給対象児童として政令で定める場合に,父から認知されたものと認知されていないものとで異なった扱いをしても,別異に扱うことに合理的理由があるなら,なお裁量の範囲内にあるものと解される。同じ婚姻外懐胎児童であっても,父から認知されたものは父に対し扶養請求権を持つのに,認知されていないものにはそのような権利はないから,社会福祉制度の一つである本件児童扶養手当の支給について,認知されていないもののみを支給対象児童とすることも合理的な理由があり,施行令1条の2第3号の括弧書部分が法の委任の趣旨に反するものとは解されない。このように解しても,認知を受けた児童が父から引き続き1年以上遺棄されている場合など,法4条1項2号から4号まで又は施行令1条の2第1号若しくは2号に該当する場合には,婚姻関係にある父母の間で出生した児童と同じ事由に基づき児童扶養手当の支給を受けることができるのであるから,格段の不利益を受けるものともいえない。多数意見は,事実上の婚姻関係にある父母の間で出生した児童が事実上の婚姻関係の解消によって児童扶養手当の支給を受けている場合に,その後の父の認知によって受給資格に消長を来さないのに,婚姻外懐胎児童の場合は父の認知により受給資格を欠くこととなるのは,整合性に欠けるようにいうが,事実上の婚姻関係にある父母の間で出生した児童については,法は,父の認知の有無にかかわらず,父があるものとして法を適用するものとしているのであるから,認知によって法の適用上新たに父が出現するものではないのに対し,婚姻外懐胎児童の場合は,父の認知によって初めて父があることになるのであるから,受給資格に関し,認知の取扱いが異なっても,整合性に欠けることとなるものではない。
 児童扶養手当は,前記のとおり,離婚等により経済状況が悪化した母子家庭等に支給される社会保障としての給付であるから,その運用は,この趣旨に従って行われるべきものであるところ,従前児童扶養手当を受ける事由となっていた受給資格に該当しなくなった場合でも,他の受給資格がある場合には,受給資格喪失処分をすることは許されないものと解するのが相当である。そして,本件のように父から認知を受けたことにより,施行令1条の2第3号の受給資格を欠くこととなった場合には,同条1号に規定する児童に該当する場合があることも十分予想されるから,児童扶養手当受給資格喪失処分の適否を判断するに当たっては,同号等に該当する事由の有無を釈明,審理する必要があるものというべきである。
 よって,この点を判断させるため,原判決を破棄し,本件を原審に差し戻すのが相当である。
(裁判長裁判官 井嶋一友 裁判官 藤井正雄 裁判官 町田 顯 裁判官 深澤武久)