判例

H05.10.05 第一小法廷・決定 平成5(あ)135 有印私文書偽造、同行使(第47巻8号7頁)

判示事項:

自己の氏名が弁護士甲と同姓同名であることを利用して「弁護士甲」の名義で文書を作成した所為が私文書偽造罪に当たるとされた事例

「目録:自己の氏名が弁護士甲と同姓同名であることを利用して「弁護士甲」の名義で文書を作成した所為が私文書偽造罪に当たるとされた事例」

要旨:

自己の氏名が弁護士甲と同姓同名であることを利用して、「弁護士甲」の名義で弁護士の業務に関連した形式、内容の文書を作成した所為は、たとえ名義人として表示された者の氏名が自己の氏名と同一であったとしても、私文書偽造罪に当たる。

主    文

     本件上告を棄却する。
         

理    由

 弁護人岩田研二郎の上告趣意のうち、判例違反をいう点は、所論引用の判例は所論の趣旨を判示したものとはいえないから、所論は前提を欠き、その余は、単なる法令違反の主張であり、被告人本人の上告趣意は、量刑不当の主張であって、いずれも刑訴法四〇五条の上告理由に当たらない。
 所論にかんがみ、職権により判断する。
 一 原判決及びその是認する第一審判決の認定するところによると、被告人は、弁護士資格を有しないのに、第二東京弁護士会に所属する弁護士Aが自己と同姓同名であることを利用して、同弁護士であるかのように装っていたものであるところ、(1)被告人を弁護士と信じていた不動産業者Bから弁護士報酬を得ようとして、昭和六三年二月下旬ころ、@「第二東京弁護士会所属、弁護士A」と記載し、A弁護士の角印に似せて有り合わせの角印を押した、土地調査に関する鑑定料等として弁護士会報酬規定に基づき七万八〇〇〇円を請求する旨の「弁護士報酬金請求について」と題する書面、A「A法律事務所大阪出張所、第二東京弁護士会所属、弁護士A」と記載し、前記角印を押した、右金額をA名義の普通預金口座に振り込むよう依頼する旨の振込依頼書、B「A法律事務所(大阪事務所)、弁護士A」と記載し、「辯護士A職印」と刻した丸印及び前記角印を押した、右金額を請求する旨の請求書各一通を作成し、Bに対し、右三通の文書を郵便により一括交付した、(2)さらに、同年三月一七日ころ、C「A法律税務事務所大阪出張所、辯護士A」と記載し、前記丸印及び角印を押した、土地の調査結果を報告する内容の「経過報告書」と題する書面、D「A法律事務所大阪事務所)、弁護士A」と記載し、前記丸印及び角印を押した、土地調査に関する鑑定料等として一〇万円を受領した旨の領収証各一通を作成し、Bの代理人に対し、右二通の文書を一括交付した、というのである。
 二 ところで、私文書偽造の本質は、文書の名義人と作成者との間の人格の同一性を偽造点にあると解されるところ(最高裁昭和五八年(あ)第二五七号同五九年二月一七日第二小法廷判決・刑集三八巻三号三三六頁参照)、前示のとおり、被告人は、自己の氏名が第二東京弁護士会所属の弁護士Aと同姓同名であることを利用して、同弁護士になりすまし、「弁護士A」の名義で本件各文書を作成したものであって、たとえ名義人として表示された者の氏名が被告人の氏名と同一であったとしても、本件各文書が弁護士としての業務に関連して弁護士資格を有する者が作成した形式、内容のものである以上、本件各文書に表示された名義人は、第二東京弁護士会に所属する弁護士Aであって、弁護士資格を有しない被告人付とは別人格の者であることが明らかであるから、本件各文書の名義人と作成者の人格の同一性にそごを生じさせたものというべきである。したがって、被告人は右の同一性を偽ったものであって、その各所為について私文書偽造罪、同行使罪が成立するとした原判断は、正当である。
 よって、刑訴法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。
  平成五年一〇月五日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    三   好       達
            裁判官    大   堀   誠   一
            裁判官    味   村       治
            裁判官    小   野   幹   雄
            裁判官    大   白       勝