判例

S32.06.07 第二小法廷・判決 昭和30(オ)548 登記抹消請求(第11巻6号999頁)

判示事項:

公売取消処分に基く所有権の復帰と対抗力。

要旨:

甲所有の不動産につき、一旦国税滞納処分による公売に基き落札者乙のため所有権取得の登記がなされた後、右公売の取消処分があつた結果、甲に所有権が復帰した場合であつても、その登記がないときは、甲は、前記落札者乙から公売取消後その不動産を譲り受けた丙に対し、右所有権の復帰を対抗することを得ない。

主    文

     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         

理    由

 上告代理人久保田oの上告理由第一点ないし第七点について。
 国税滞納処分における公売による不動産所有権の移転に関しても民法一七七条の適用あるものと解すべきことは、当裁判所の判例の趣旨に照し明らかである。(昭和二九年(オ)七九号同三元年四月二四日第三小法廷判決参照)しかして、原審の確定した事実によれば、原判決目録記載の不動産は、もと上告人の所有であつたが、国税滞納処分として公売に付され、Aがこれを落札してその所有権を取得し同人のため所有権取得の登記がなされたところ、その后、上告人の再調査の請求により右公売処分は取消されたが、右公売処分の取消にもとずく所有権の回復については上告人は登記を経由しないでいるうちに、Aは、本件不動産を被上告人Bに譲渡し、次いで同被上告人の手を経て、被上告人C及び被上告人東京都が、それぞれ原判示のごとくその所有権を取得し、その登記を経由したというのである。
 以上の事実関係の下においては、たとえ前記公売処分の取消により、上告論旨主張のごとく遡及的に本件不動産の所有権がAから上告人に復帰したと仮定しても、(本件公売処分の取消は、上告人の再調査の請求にもとずく取消処分であつて、上告論旨の主張するごとく、右公売の当然無効なることを宣言した趣旨でないことは原判示上あきらかである)その所有権の回復について登記を経由しなかつた上告人は、右公売処分取消の後に、本件不動産の所有権を譲受けた被上告人等に対抗し得ないことは勿論である。けだし本件不動産が、前示公売により、一旦Aの所有に帰した事実がある以上、Aにおいて前記のごとく、公売処分の取消により上告人に所有権が復帰したのち、さらに、被上告人Bに譲渡したのは、民法一七七条の関係では、あたかもAがこれを上告人と被上告人Bに対し、いわゆる二重譲渡をした場合と異なるところはないからである。論旨引用の昭和一七年の大審院判例は以上の判断と抵触しないし、同四年の判例は本件と事実関係を異にし本件に適切でない。されば右と同趣旨に出た原判旨は正当であつて論旨は理由がない。
 同第八点について。
 記録を調べても、原審において、所論のごとき擬制自白のなされた事実を認めることはできない。論旨はとることができない。
 よつて、民訴三九六条、三八四条、九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    池   田       克
            裁判官    河   村   大   助
            裁判官    奥   野   健   一