判例

S36.12.21 第一小法廷・判決 昭和34(オ)596 第三者異議等(第15巻12号3243頁)

判示事項:

賃借人の債務不履行による賃貸借解除と転貸借の終了。

要旨:

賃貸借の終了によつて転貸借は当然にの効力を失うものではないが、賃借人の債務不履行により賃貸借が解除された場合には、その結果転貸人としての義務に履行不能を生じ、よつて転貸借は右賃貸借の終了と同時に終了に帰する。

主    文

     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         

理    由

 上告代理人岡井藤志郎の上告理由第一点について。
 原判決が「およそ賃借人がその債務の不履行により賃貸人から賃貸借契約を解除されたときは、賃貸借契約の終了と同時に転貸借契約も、その履行の履行不能により当然終了するものと解するを相当とする」と判示して所論昭和一〇年一一月一八日言い渡の大審院判決を引用したことは正当である。そして、所論は、原判決が右判決を引用したのは、同判決を誤解したものであるというが、同判決は、転貸借の終了するに先だち賃貸借が終了したときは爾後転貸借は当然にその効力を失うことはないが、これをもつて賃貸人に対抗し得ないこととなるものであつて、賃貸人より転貸人に対し返還請求があれば転貸人はこれを拒否すべき理由なく、これに応じなければならないのであるから、その結果転貸人は、転貸人としての義務を履行することが不能となり、その結果として転貸借は終了に帰するものである旨を判示していることは、同判例の判文上明らかである。しからば、右判例は、本件につき原審の確定した事実関係には適切なものであつて、原審がこれを引用判示したことには、何ら所論の違法はない。それ故、所論は採るを得ない。
 同第二点について。
 原判決は、訴外Aの訴外Bに対する転貸借契約上の債務も、昭和二八年九月一○日、被上告人らのAに対する契約解除と同時に消滅したものであると判示しており、右原審の判断は正当である。所論は、右原判示に副わない主張(AがBに対し転貸すべき義務は依然存続し、履行不能とはなつていないとの主張)を前提として、原判決を非難するものであつて、採るを得ない。
 同第三点、第四点について。
 所論は、訴外Aの訴外Bに対する転貸が履行不能でないことを前提として被上告人らの本件明渡請求は不法行為であるというのであつて、原審の判示に副わない主張であり、独自の見解であつて、採るを得ない。
 同第五点、第七点について。
 被上告人らの本件明渡請求は権利濫用に当らないとした原判示は正当である。それ故、所論は採るを得ない。
 同第六点について。
 原審の実実認定は、挙示の証拠により是認できる。原判決の判示には、その間何ら所論理由そごの違法は認められない。所論はひつきよう原審の認定に副わない事実関係を前提として原判決を非難するものであつて、採るを得ない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    下 飯 坂   潤   夫