判例

S39.07.10 第二小法廷・判決 昭和36(オ)553 詐害行為取消等請求(第18巻6号1078頁)

判示事項:

受益者が詐害行為の目的不動産に抵当権を設定した場合と右詐害行為取消請求。

要旨:

詐害行為として不動産売却行為を取り消し所有権取得登記の抹消を受益者に請求する訴は、受益者が当該不動産上に第三者のために右不動産の価格を上廻る被担保債権額について抵当権を設定している場合には、特段の事情のないかぎり、許されない。

主    文

     原判決を破棄する。
     本件を名古屋高等裁判所に差し戻す。
         

理    由

 上告代理人荒谷昇の上告理由第一、第三点について。
 訴外Aが本件不動産を上告会社に売り渡し同会社が訴外B、同Cに対し所論抵当権の設定をしていることは、原判決(第一審判決引用)の認定判示するところであつて、所論指摘のとおりである。
 そもそも、詐害行為取消の訴を認容する判決の効力は、相対的であると解せられるから、訴外Aと上告会社との間の譲渡行為を取消の対象とする本件のごときにあつて、受益者たる上告会社が当該不動産上に第三者のための抵当権を設定したからといつて、右抵当権付のままの不動産を債務者へ復帰させることをもつて一般債権者の債権の共同担保を確保し得て債権者取消権行使の目的を達し得るような場合には、債権者は転得者たる抵当権者に対し抵当権設定の取消を請求しなくても受益者に対し譲渡行為の取消並びにその所有権取得登記の抹消登記手続を請求できると解し得ることは、原判決が原審における参加人の参加申立許否の判断について説示するとおり、これを肯認できるが、その反面また、債務者Aと受益者上告会社との間の本件不動産の売買契約が詐害行為として取り消されて上告会社の所有権取得登記の抹消登記手続がなされても、転得者たる訴外B、同Cの抵当権は当然消滅に帰するものではないといわねばならないから、右取消後の状態においても、なお一般債権担保の目的たるべき本件不動産に対し依然として優先的な抵当権の追及が存続する関係にある。しかして、上告人の原審における主張によれば、訴外B、同Cに対する抵当権の被担保債権額は、合算して本件不動産の価格を上廻るというのであるから、もしその主張が是認されるとすれば、特段の事情のない限り、本件取消権を行使してみても一般債権者に対する共同担保の確保に寄与するものとはいい難い。従つて、原審としては、よろしく右主張の抵当債権額を認定して、それと本件不動産の価格との対比を考量し、本件取消請求が債権者取消権制度の趣旨とする共同担保確保の目的を達し得る場合にあたるかどうかを審按すべきであるところ(大審院大正六年(オ)第四七一号同年一〇月三日判決、民録二三輯一三八三頁、当裁判所昭和三〇年(オ)第二六〇号昭和三六年七月一九日大法廷判決、民集一五巻七号一八七五頁参照)、原判決は右の点を何ら考慮することなく、漫然本件不動産の所論売買契約の取消を認容し、上告人に対し所有権移転登記の抹消登記手続を命じている。
 右は、原判決が民法四二四条の解釈適用を誤り、その結果として審理不尽、理由不備の違法をおかすものというのほかなく、結局この点を指摘する論旨は理由があり、原判決はその余の上告論旨について判断するまでもなく破棄を免れない。よつて、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致をもつて、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    奥   野   健   一
            裁判官    山   田   作 之 助
            裁判官    草   鹿   浅 之 介
            裁判官    城   戸   芳   彦
            裁判官    石   田   和   外