判例

S44.06.24 第三小法廷・判決 昭和41(オ)981 売掛代金請求(第23巻7号1079頁)

判示事項:

金銭債権について債権者代位権を行使しうる範囲

要旨:

債権者が債務者に対する金銭債権に基づいて債務者の第三債務者に対して有する金銭債権を代位行使する場合においては、債権者は自己の債権額の範囲においてのみ債務者の債権を行使しうると解すべきである。



主    文

     原判決および第一審判決中左記(1)ないし(4)記載の各部分につき、原判決を破棄し、第一審判決を取り消す。
     (1) 上告人A、同B、同C、同D、同E、同Fに対する請求に関しては、各自二、三一二、三六四円八〇銭およびこれに対する昭和二六年二月七日以降完済に至るまで年六分の割合による金員を超える部分。
     (2) 上告人G、同H、同I、同J、同K、同L、同M、同N、同Oに対する請求に関しては、各自一七一、二八六円二八銭およびこれに対する昭和二六年二月七日以降完済に至るまで年六分の割合による金員を超える部分。
     (3) 上告人P、同Qに対する請求に関しては、各自七七〇、七八八円二六銭およびこれに対する昭和二六年二月七日以降完済に至るまで年六分の割合による金員を超える部分。
     (4) 上告人R、同S、同Tに対する請求に関しては、各自五一三、八五八円八四銭およびこれに対する昭和二六年二月七日以降完済に至るまで年六分の割合による金員を超える部分。
     右各部分についての被上告人の請求を棄却する。
     上告人らのその余の部分に対する上告を棄却する。
     訴訟の総費用はこれを一〇分し、その一を被上告人の負担とし、その余を上告人らの連帯負担とする。
         

理    由

 上告人Aの上告理由について。
 訴外中部缶詰株式会社(以下単に訴外会社という。)設立の際におけるその株式の払込および当該払込金の返還に関し原審が確定した諸般の事情のもとにおいては、右会社の株式については実質的に払込があつたものとはいえず、右払込は右会社の株式の払込としての効力を有しない旨の原審の判断は正当である。したがつて、原判決に所論の違法はなく、所論は、独自の見解に立つて原判決を攻撃するか、あるいは原判決とかかわりのない事項に関する主張であつて、採用できない。
 上告人B外一八名(上告人Aを除く。)上告代理人鈴木匡、同大場民男、同情水幸雄の上告理由第一点その一について。
 訴外会社が訴外中部食品株式会社缶詰部の権利義務一切を承継したことが商法二四五条一項三号にいう「他の会社の営業全部の譲受」にあたらないことはいうまでもない。所論は、ひつきよう、原判示にそわない事実を前提として原判決を攻撃するものであつて、採用できない。
 同その二について。
 所論は、要するに、代位行使の対象となつた本訴請求債権は、遅延損害金の利率が高いため、代位の基礎となつた国の訴外会社に対する債権より過大となり、代位権行使の範囲を逸脱する、したがつて、これを許容する原判決は違法であるというにある。
 そこで考えるのに、債権者代位権は、債権者の債権を保全するために認められた制度であるから、これを行使しうる範囲は、右債権の保全に必要な限度に限られるべきものであつて、債権者が債務者に対する金銭債権に基づいて債務者の第三債務者に対する金銭債権を代位行使する場合においては、債権者は自己の債権額の範囲においてのみ債務者の債権を行使しうるものと解すべきである。ところで、本件において原審の確定するところによれれば、債権者たる被上告人の訴外会社に対する債権は、元本は二、三一二、三六四円八〇銭ではあるが、遅延損害金の利率が年六分であるため、原審の口頭弁論終結時における元利合計額は四四〇万円に満たないのに反し、債務者たる訴外会社の一審被告ら八名に対する各債権は、元本こそ二〇〇万円であるが、その遅延損害金の利率が日歩四銭であるため、前同日までの元利合計額は六六〇万円を超えることが計数上明らかである。そうであれば、被上告人としては、前記自己の債権額を超えて訴外会社の一審被告らに対する前記請求債権の全額についてこれを代位行使することはできないものといわなければならない。
 ところで、原審の確定するところによれば、一審被告中Uが昭和三三年一月二一日死亡し、その子である上告人G、同H、同I、同J、同K、同L、同M、同N、同Oが各自その相続分である二七分の二の割合に応じた限度において、その妻である上告人Pがその相続分である三分の一の割合に応じた限度において、それぞれ同人の義務を承継し、一審被告Vが同年一一月二四日死亡し、その子である上告人R、同S、同Tが各自その相続分である九分の二の割合に応じた限度において、その妻である上告人Qがその相続分である三分の一の割合に応じた限度において、それぞれ同人の義務を承継したというのであるから、被上告人の本訴請求は、上告人A、同B、同C、同D、同E、同Fについては、被上告人の訴外会社に対する債権額である二、三一二、三六四円八〇銭、Uの子である上告人Gら九名については、その二七分の二にあたる一七一、二八六円二八銭、その妻である上告人PおよびVの妻である上告人Qについては、その三分の一にあたる七七〇、七八八円二六銭、右Vの子である上告人Rら三名については、その九分の二にあたる五一三、八五八円八四銭、および各これに対する最終内入弁済のあつた日の翌日であること当事者間に争いのない昭和二六年二月七日以降右完済に至るまで商事法定利率である年六分の割合による金員の支払を求める限度でこれを認容し、これを超える部分は失当としてこれを棄却すべきものである。したがつて、原審の判断は、右範囲内において被上告人の本訴請求を認容した限度においては正当というべきであるが、この限度を超えて右請求を認容した部分は、民法四二三条の解釈適用を誤つた違法があるというべきであつて、右部分については、原判決を破棄し、第一審判決を取り消し、被上告人の本訴請求を棄却すべきものである。
 同その三について。
 訴外会社の設立に関し、原審の確定した諸般の事情に照らせば、訴外会社が昭和二四年一一月五日その設立登記とともに成立した旨の原審の判断は相当である。したがつて、原判決に所論の違法はなく、所論は、ひつきよう、原判示にそわない事実を前提とするか、あるいは独自の見解に立つて原判決を攻撃するに帰し、採用できない。
 同第二点その一について。
 原判決が訴外会社の設立に際しては、払込の外形が整えられたにすぎず、実質的には払込がなされていない旨判示していることは、その判文上明らかであり、その判断が正当であることは前記説示のとおりである。したがつて、原判決に所論の違法はなく、所論は、ひつきよう、右と異なつた見解に立つて原判決を攻撃するに帰し、採用できない。
 同その二について。
 所論1引用の原判示は、経済上、実質上の買主が訴外会社であることが判明したという趣旨のもので、売買契約上の当事者または法律上の買主が訴外会社であることが判明したという趣旨のものではないと解される。したがつて、原判決に所論の違法はなく、所論は、ひつきよう、原判決を正解しないでこれを攻撃するに帰し、採用できない。
 同第三点について。
 被上告人は訴外会社に対し売掛残代金二、三一二、三六四円八〇銭の債権を有する旨の原審の判断は、証拠関係に照らして相当である。したがつて、原判決に所論の違法はなく、所論は、ひつきよう、原審の適法にした証拠の取捨判断および事実の認定を非難するに帰し、採用できない。
 同第四点その一について。
 訴外会社が控訴人A、食糧品配給公団間の本件売買契約から生じた権利義務および訴外中部食品株式会社、同公団間の本件売買契約から生じた一切の権利義務を承継し、訴外会社の監査役が右承継について承認した旨の原審の判断は、原判決挙示の証拠に照らし、肯認しえないではない。したがつて、原判決に所論の違法はなく、所論は、ひつきよう、原審の適法にした証拠の判断および事実の認定を非難するに帰し、採用しえない。
 同その二について。
 所論の点についての原審の認定判断の相当であることは、前記のとおりである。したがつて、原判決に所論の違法はなく、論旨は理由がない。
 よつて、さきに上告理由第一点その二について判示した破棄部分以外の点に関する上告は棄却すべきものとし、民訴法四〇八条、三九六条、三八六条、三八四条、九六条、八九条、九二条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    飯   村   義   美
            裁判官    田   中   二   郎
            裁判官    下   村   三   郎
            裁判官    松   本   正   雄
            裁判官    関   根   小   郷