判例

S49.09.20 第二小法廷・判決 昭和47(オ)1194 詐害行為取消、株金等支払請求(第28巻6号1202頁)

判示事項:

相続の放棄と詐害行為取消権

要旨:

相続の放棄は、民法四二四条の詐害行為取消権行使の対象とならない。



主    文

     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         

理    由

 上告人の上告理由前文について。
 原判文によれば、原審が所論の点につき適法に事実を認定判示していることが明らかであるから、原判決に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審で主張しない事実を交えて、原審が適法にした事実の認定を非難するにすぎず、採用することができない。
 同第一点及び第二点について。
 所論の点に関する原審の判断は、正当として是認することができ、右判断の過程に所論の違法はない。所論中違憲をいう部分は、具体的に憲法のどの条項に違反するかを主張するものではないから、失当である。論旨は、採用することができない。
 同第三点について。
 原審が適法に確定した事実関係のもとにおいては、所論の点に関する原審の判断は正当として是認することができ、その過程に所論の違法は認められない。所論中違憲をいう部分は、原判決に右違法のあることを前提とするものであるから、その前提を欠く。論旨は、採用することができない。
 同第四点及び第五点(2)について。
 相続の放棄のような身分行為については、民法四二四条の詐害行為取消権行使の対象とならないと解するのが相当である。なんとなれば、右取消権行使の対象となる行為は、積極的に債務者の財産を減少させる行為であることを要し、消極的にその増加を妨げるにすぎないものを包含しないものと解するところ、相続の放棄は、相続人の意思からいつても、また法律上の効果からいつても、これを既得財産を積極的に減少させる行為というよりはむしろ消極的にその増加を妨げる行為にすぎないとみるのが、妥当である。また、相続の放棄のような身分行為については、他人の意思によつてこれを強制すべきでないと解するところ、もし相続の放棄を詐害行為として取り消しうるものとすれば、相続人に対し相続の承認を強制することと同じ結果となり、その不当であることは明らかである。
 そうすると、これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができ、その過程に所論の違法は認められない。論旨は、採用することができない。
 同第五点(1)及び第六点について。
 所論の点に関する原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法は認められない。論旨は、採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    吉   田       豊
            裁判官    岡   原   昌   男
            裁判官    小   川   信   雄
            裁判官    大   怐@  喜 一 郎