判例

S50.12.01 第二小法廷・判決 昭和49(オ)480 詐害行為取消請求(第29巻11号1847頁)

判示事項:

不動産の譲渡が詐害行為になる場合の価格賠償額算定の基準時

要旨:

不動産の譲渡が詐害行為になる場合において現物返還に代わる価格賠償をすべきときの価格は、特別の事情がないかぎり、当該詐害行為取消訴訟の事実審口頭弁論終結時を基準として算定すべきである。



主    文

     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         

理    由

 上告代理人檜山雄護、同工藤健蔵の上告理由第一点一について
 本件詐害行為の成立を認めた原審の判断は、その適法に確定した事実関係のもとにおいては正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。
 同第一点二について
 原審は、Aが上告人に対して本件建物につき本件代物弁済の予約をする以前にこれを譲渡担保に供していたと認定しているものではない。したがつて、所論はその前提を欠き、原判決に所論の違法はない。所論引用の判例は本件に適切でなく、論旨は、採用することができない。
 同第二点について
 不動産の譲渡が詐害行為として取消を免れず受益者において現物返還は代る価格賠償をすべきときの価格の算定は、特別の事情がないかぎり、当該詐害行為取消訴訟の事実審口頭弁論終結時を基準としてなすべきものと解するのが相当である。けだし、右価格賠償における価格の算定は、受益者が事実審口頭弁論終結時までに当該不動産の全部又は一部を他に処分した場合において、その処分後に予期しえない価額の高騰があり、詐害行為がなくても債権者としては右高騰による弁済の利益を受けえなかつたものと認められる等特別の事情がないかぎり、詐害行為取消の効果が生じ受益者において財産回復義務を負担する時、すなわち、詐害行為取消訴訟の認容判決確定時に最も接着した時点である事実審口頭弁論終結時を基準とするのが、詐害行為によつて債務者の財産を逸出させた責任を原因として債務者の財産を回復させることを目的とする詐害行為取消制度の趣旨に合致し、また、債権者と受益者の利害の公平を期しえられるからである。原判決に所論の違法はなく、所論引用の判例は本件に適切でない。論旨は、採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    吉   田       豊
            裁判官    岡   原   昌   男
            裁判官    大   怐@  喜 一 郎
            裁判官    本   林       讓