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判例

H13.01.30 第一小法廷・決定 平成12(許)17 補助参加申立て却下決定に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件(第55巻1号30頁)

判示事項:

取締役会の意思決定が違法であるとして取締役に対し提起された株主代表訴訟において株式会社が取締役を補助するため訴訟に参加することの許否

要旨:

取締役会の意思決定が違法であるとして取締役に対し提起された株主代表訴訟において,株式会社は,特段の事情がない限り,取締役を補助するため訴訟に参加することが許される。
(反対意見がある。)

 原審  

H12.04.04 名古屋高等裁判所 (平成12(ラ)41)


主    文

原決定を破棄し,原々決定を取り消す。
名古屋地方裁判所平成11年(ワ)第3675号取締役責任追及事件について,抗告人が被告らを補助するために訴訟に参加することを許可する。
補助参加の申出に対する異議の申立て及び抗告の申立てによって生じた費用は,相手方の負担とする。
         

理    由

 抗告代理人野島達雄の抗告理由について
 1 記録によれば,本件の経緯は次のとおりである。
 (1)本件の本案訴訟(名古屋地方裁判所平成11年(ワ)第3675号取締役責任追及事件)は,抗告人の株主である相手方が,抗告人の取締役らに対し,同取締役らが取締役としての忠実義務に違反して,抗告人の第48期及び第49期の各決算における粉飾決算を指示し,又は粉飾の存在を見逃し,その結果,法人税等の過払をし,検査役に報酬を支払い,株主に利益配当するなどして,抗告人に損害を与えたと主張して,商法267条に基づき,損害賠償を請求する株主代表訴訟である。
 (2)本案訴訟において,抗告人が取締役らのため補助参加を申し出たところ,相手方はこれに対して異議を述べた。
 2 原審は,概要次のとおり判示して,抗告人の補助参加の申出を却下すべきものとした。
 (1)補助参加の制度は,被参加人が勝訴判決を受けることにより補助参加人も利益を受ける関係にある場合に参加を認めるものであるから,被参加人が勝訴判決を受けることにより補助参加人が不利益を受ける関係にある場合に参加を認めることは,民事訴訟の構造に反することとなる。
 (2)本案訴訟の訴訟物は,抗告人の取締役らに対する損害賠償請求権であり,判決主文における判断について,抗告人は取締役らとは実体法上の利害が相反し対立する関係にあることは明らかである。もし,取締役らへの補助参加を認めると,抗告人は自己に帰属し,自らがその存否について既判力を受ける損害賠償請求権につき,その存在を争う当事者のために訴訟行為をすることが許されるという関係になり,民事訴訟の構造に反する結果となるから,抗告人は,「訴訟の結果について利害関係を有する第三者」ということはできない。
 3 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 (1)民訴法42条所定の補助参加が認められるのは,専ら訴訟の結果につき法律上の利害関係を有する場合に限られ,単に事実上の利害関係を有するにとどまる場合は補助参加は許されない(最高裁昭和38年(オ)第722号同39年1月23日第一小法廷判決・裁判集民事71号271頁参照)。そして,法律上の利害関係を有する場合とは,当該訴訟の判決が参加人の私法上又は公法上の法的地位又は法的利益に影響を及ぼすおそれがある場合をいうものと解される。
 (2)【要旨】取締役会の意思決定が違法であるとして取締役に対し提起された株主代表訴訟において,株式会社は,特段の事情がない限り,取締役を補助するため訴訟に参加することが許されると解するのが相当である。けだし,取締役の個人的な権限逸脱行為ではなく,取締役会の意思決定の違法を原因とする,株式会社の取締役に対する損害賠償請求が認められれば,その取締役会の意思決定を前提として形成された株式会社の私法上又は公法上の法的地位又は法的利益に影響を及ぼすおそれがあるというべきであり,株式会社は,取締役の敗訴を防ぐことに法律上の利害関係を有するということができるからである。そして,株式会社が株主代表訴訟につき中立的立場を採るか補助参加をするかはそれ自体が取締役の責任にかかわる経営判断の一つであることからすると,補助参加を認めたからといって,株主の利益を害するような補助参加がされ,公正妥当な訴訟運営が損なわれるとまではいえず,それによる著しい訴訟の遅延や複雑化を招くおそれはなく,また,会社側からの訴訟資料,証拠資料の提出が期待され,その結果として審理の充実が図られる利点も認められる。
 (3)これを本件についてみると,前記のとおり,本件は,抗告人の第48期及び第49期の各決算において取締役らが忠実義務に違反して粉飾決算を指示し又は粉飾の存在を見逃したことを原因とする抗告人の取締役らに対する損害賠償請求権を訴訟物とするものであるところ,決算に関する計算書類は取締役会の承認を受ける必要があるから(商法281条),本件請求は,取締役会の意思決定が違法であるとして提起された株主代表訴訟である。そして,上記損害賠償請求権が認められて取締役らが敗訴した場合には,抗告人の第48期以降の各期の計算関係に影響を及ぼし,現在又は将来の取引関係にも影響を及ぼすおそれがあることが推認されるのであって,抗告人の補助参加を否定すべき特段の事情はうかがわれない。
 4 以上によれば,原審の前記判断には,法令の解釈適用を誤った違法があり,この違法は裁判に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は理由があり,原決定は破棄を免れない。そして,前記説示によれば,抗告人の補助参加を許可すべきである。
 よって,裁判官町田顯の反対意見があるほか,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。
 裁判官町田顯の反対意見は,次のとおりである。
 1 本件の本案訴訟は,抗告人の株主である相手方が抗告人の取締役らに対し,同取締役らが抗告人に対する忠実義務に違反し,その結果抗告人に損害を与えたと主張する株主代表訴訟である。したがって,相手方は抗告人のため(商法267条2項)訴訟を遂行するものであり,本案訴訟の訴訟物は抗告人の取締役らに対する損害賠償請求権であるから,抗告人は,訴訟の構造上も,実体法の権利上も取締役らと対立する関係にあるのであって,抗告人が取締役らのため補助参加することが許されないことは,原決定の述べるとおりである。
 2 多数意見は,本件請求は取締役会の意思決定が違法であるとして提起された株主代表訴訟であるから抗告人の取締役らに対する補助参加が許されるとするが,本件本案訴訟において審判の対象となるのは,上記のとおり,取締役らの行動が取締役の負う忠実義務に違反するかどうかであって,その行動が取締役会の意思決定の際のものであっても,その意思決定そのものの適否や効力が審判の対象となるものではない。確かに,本件請求のように粉飾決算を指示し,又は粉飾の事実を見逃したことを忠実義務違反の理由とする場合には,粉飾決算の有無が判断されることとなるが,それは取締役個人の忠実義務違反の存否を確定するために判断されるものであって,抗告人がその判断に利害関係を有するとしても,それは事実上のものにとどまり,補助参加の要件としての法律上の利害関係に当たるものと解することはできない。したがって,この意味からも本件補助参加は,許されない。
 3 多数意見は,また,本件補助参加を認めることにより抗告人からの訴訟資料等の提出が期待できるともいうが,本案訴訟の被告である取締役らのうちには,抗告人の代表者も含まれていることよりすれば,補助参加を認めなければ適切な訴訟資料等の提出が期待できないとも考えられない。
 4 よって,これと同旨の原審の判断は正当であるから,本件抗告は棄却すべきである。
(裁判長裁判官 町田 顯 裁判官 井嶋一友 裁判官 藤井正雄 裁判官 大出峻郎 裁判官 深澤武久)