判例

S30.10.11 第三小法廷・判決 昭和28(オ)1034 詐害行為取消請求(第9巻11号1626頁)

判示事項:

詐害行為の目的物が不可分な場合と取消の範囲。

要旨:

詐害行為となる債務者の行為の目的物が、不可分な一棟の建物であるときは、たとえその価額が債権者を超える場合でも、債権者は、右行為の全部を取り消すことができる。

主    文

     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         

理    由

 上告代理人中田・郎の上告理由について。
 民法四二四条に依る債権者の取消権は、債権者の債権を保全するためその債権を害すべき債務者の法律行為を取消す権利であるから、債権者は故なく自己の債権の数額を超過して取消権を行使することを得ないことは論を待たないが、債務者のなした行為の目的物が不可分のものであるときは、たとえその価額が債権額を超過する場合であつても行為の全部について取消し得べきことは、すでに大審院判決の示したとおりである(明治三六年一二月七日大審院判決、民録九巻一三四五頁、大正七年五月一八日同判決、民録二四巻九九五頁、大正五年一二月六日同判決、民録二二巻二三七三頁、大正九年一二月二四日同判決、民録二六巻二〇二四頁各参照)。そして、原審の確定した事実によれば、Aが上告人に贈与したものは一棟の建物であるから贈与の目的物はもとより不可分なので、右建物の時価は五四万円でありその処分当時の被上告人Aに対する債権額は四五万円であつたとしても、被上告人がその債権額を超えた前記贈与の全部を取消し得るものとした原審の判断は、前記判例の趣旨に副うところであるから、原判決は結局において正当である。それ故、論旨は理由がない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    小   林   俊   三
            裁判官    本   村   善 太 郎
            裁判官    垂   水   克   己