判例
S30.10.14 第二小法廷・判決 昭和27(あ)6596 詐欺、恐喝、銃砲等所持禁止令違反(第9巻11号2173頁)
判示事項:
権利行使と恐喝罪。
要旨:
債権取立のために執つた手段が、権利行使の方法として社会通念上一般に許容すべきものと認められる程度を逸脱した恐喝手段である場合には、債権額のいかんにかかわらず、右手段により債務者から交付を受けた金員の全額につき恐喝罪が成立する。
主 文
本件各上告を棄却する。
理 由
被告人Aの弁護人渡辺彰平の上告趣意第一、二点について。
所論は違憲を主張するところがあるけれども、その実質は単なる訴訟法違反の主張に過ぎない。
被告人Bの弁護人佐々木秀雄の上告趣意第一点並びに被告人Cの弁護人山本政喜の上告趣意第一点について。
他人に対して権利を有する者が、その権利を実行することは、その権利の範囲内であり且つその方法が社会通念上一般に忍溶すべきものと認められる程度を超えない限り、何等違法の問題を生じないけれども、右の範囲程度を逸脱するときは違法となり、恐喝罪の成立することがあるものと解するを相当とする(昭和二六年(れ)二四八二号同二七年五月二〇日第三小法廷判決参照)。本件において、被告人等が所論債権取立のために執つた手段は、原判決の確定するところによれば、若し債務者Dにおいて被告人等の要求に応じないときは、同人の身体に危害を加えるような態度を示し、且同人に対し被告人A及び同B等は「俺達の顔を立てろ」等と申向けDをして若しその要求に応じない時は自己の身体に危害を加えられるかも知れないと畏怖せしめたというのであるから、もとより、権利行使の手段として社会通念上、一般に忍容すべきものと認められる程度を逸脱した手段であることは論なく、従つて、原判決が右の手段によりDをして金六万円を交付せしめた被告人等の行為に対し、被告人CのDに対する債権額のいかんにかかわらず、右金六万円の全額について恐喝罪の成立をみとめたのは正当であつて、所論を採用することはできない。
被告人Bの弁護人佐々木秀雄の上告趣意第二点第三点について。
右は事実誤認量刑不当の主張であつて上告適法の理由とならない。
被告人Cの弁護人山本政喜の上告趣意第二点について。
所論は事実誤認の主張であつて上告適法の理由とならない。また記録を精査しても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。
よつて同四一四条三九六条により主文のとおり判決する。この判決は、裁判官全員一致の意見である。
本件公判には、検察官神山欣治が出席した。
昭和三〇年一〇月一四日
最高裁判所第二小法廷
裁判長裁判官 栗 山 茂
裁判官 小 谷 勝 重
裁判官 藤 田 八 郎
裁判官 谷 村 唯 一 郎
裁判官 池 田 克