判例

S31.12.27 第一小法廷・決定 昭和31(あ)2114 私文書偽造、同行使、詐欺等(第10巻12号1798頁)

判示事項:

いわゆる無記名定期預金証書偽造の罪の適条。

要旨:

いわゆる無記名定期預金証書を偽造する所為は、私文書偽造の罪にあたる。

主    文

     本件上告を棄却する。
     当審における訴訟費用は被告人Aの負担とする。
         

理    由

 被告人Aの弁護人宍戸雄蔵の上告趣意は事実誤認、単なる法令違反の主張であり、被告人Bの弁護人中山福蔵の上告趣意は違憲をいうが、その実質は単なる法令違反、事実誤認、量刑不当の主張であり、被告人Cの弁護人山根弘毅の上告趣意は量刑不当の主張であつて、いずれも刑訴四〇五条の上告理由に当らない。(なお、弁護人宍戸雄蔵の論旨中、有価証券偽造、同行使に関する法条を適用すべしとの主張は、被告人に不利益な主張であつて、上告理由として不適法であるのみならず、本件無記名定期預金証書は、定期預金証書の用紙を用い、所要事項の内宛名の部分(預金者名)を空欄としてあり、その裏面には約定文書として「この預金は当銀行の承諾なくしては、他に譲渡し又は質入せられることを御断りします」、「此の預金の取引については、予て御屈出の印章を御用い願います」、「この証書を喪失せられましたときは、直ちに御届け願います。当銀行は……適当と認める保証人二名と共に連署した保証書を徴し代り証書を御渡しし又は元利金を御支払致します」等が印刷されているのであつて、かかる証券は、財産権が証券に化体せられ、その行使、譲渡に右証券の占有を必要とする有価証券とは認めることができず、従つて、事実審がこれに有価証券偽造同行使に関する法条を適用せずして、私文書偽造、同行使罪に問擬したのは正当である。)
 よつて同四一四条、三八六条一項三号、一八一条(被告人Aにつき)により裁判官全員一致の意見で主文のとおり決定する
  昭和三一年一二月二七日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    齊   藤   悠   輔