判例

S36.06.22 第一小法廷・判決 昭和35(オ)505 所有権移転登記手続等請求(第15巻6号1651頁)

判示事項:

契約解除と同時履行の関係に立つ反対給付の履行の提供の時期。

要旨:

双務契約上の債務が同時履行の関係に立つ場合、右契約を解除しようとする当事者の債務の履行の提供は、催告に指定された履行期日にこれをすれば足りる。

主    文

     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。       

理    由

 上告代理人弁護士白井源喜の上告理由第一点について。
 原判決が所論の点に関し「残代金の支払を猶予した形になつた」としるしていることは所論のとおりである。しかし、右に関する前後の行文を熟読すれば、原判決は「おそくとも同年一二月同控訴人(被上告人A)が再度宮崎から大和高田に来るときは必ず支払つてくれるよう催告し」という点に重点をおいて事実認定をしていることが明らかであり、前示括弧内の文詞はあらずもがなの無用の文字を連ねたものに過ぎないものと解するのが相当である。されば、所論は原判決を正解しないで、所論判例を引用する等種々論説するに外ならないものであつて、採用のかぎりではない。
 同第二点について。
 所論の場合、裁判所としては契約解除の意思表示があつたという事実認定をすれば足るのであつて、所論解除の意思表示の効果がいかようになつているかに立入つて審理しなければ契約解除があつたものと判断できないという筋合があるわけのものではない。所論は独自の見解に座するものであつて、採るに足りない。
 同第三点について。
 しかし、原判決によれば被上告人Aは前示催告において指定した履行期である昭和二三年一二月末である同月二六日に同時履行の関係において自己の負担する債務すなわち所有権移転登記をするについて必要な書類をととのえた上で上告人宅に赴き、残代金の支払を求めたが全額の支払を拒絶されたので、契約解除の意思表示をしたというのであるから、被上告人Aは右意思表示をなすについての履行の提供をなし了つたものというべく、従つて本件契約解除には所論の欠点ありというを得ない。所論は、甲第一号証記載の履行期日には何ら履行の提供はなかつたというが、本件のような場合は、前示催告において指定された履行期日に被上告人Aの履行の提供あれば足るのであつて、それ以前のことは問うところではないのである。なお、所論引用の判例は本件に適切なものではない。それ故、所論は採用できない。
 同第四点について。
 しかし、所論履行の提供の点は、被上告人Aにおいて、本件売買契約の解除を主張する以上当然に主張すべき事柄であるから、右は被上告人の全主張の中に包含されているものと解するを相当とすべく、また右履行の提供あつたものとして原判決の認定した具体的事実も、その挙示の全証拠に照合すれば認定不可能のものとも認められず、所論のこの点に関する非難は、原審の専権行使を非議するに期するものというの外はない。所論引用の判例はその内容洵に然りであるが、本件に適切のものとして遇するを得ない次第である。それ故所論は採用できない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で主文のとおり判決する。

     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    下 飯 坂   潤   夫
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    高   木   常   七