判例

S37.10.09 第三小法廷・判決 昭和34(オ)1084 分配金請求(第16巻10号2070頁)

判示事項:

詐害行為取消債権者は受益者より引渡を受けた価格賠償金を他の債権者に分配する義務を負うか。

要旨:

詐害行為取消の判決に基づき取消債権者が受益者より自己に価格賠償金の引渡を受けた場合、取消債権者は、右価格賠償金を他の債権者に分配する義務を負うものではない。

主    文

     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         

理    由

 上告代理人小山内績の上告理由について。
 上告人の本訴請求は「上告人と被上告人はともに訴外青森県ジヤム工業株式会社の債権者であるが、上告人において昭和二九年五月二一日右訴外会社から自己の債権を確保するため譲渡担保としてりんごボイル二四五七缶を譲受けたところ、被上告人は右譲渡担保契約は一般債権者を害するものであるとし、右契約中被上告人の債権額に相当するりんごボイル二〇五八缶の部分の取消と、上告人の手により他に売り渡してあつた右二〇五八缶の取戻に代るものとして売得金八六万四、三〇一円の支払とを求める取消訴訟を提起し、その旨の勝訴判決(確定)があつた。よつて上告人は被上告人に対し金八六万四、三〇一円を支払つた。ところで、右判決による詐害行為の取消は、民法四二五条の規定により総債権者の利益のためにその効力を生じたものであるから、被上告人が上告人より支払を受けた右金員も総債権者の間で分配されるべきものであるところ、訴外会社に対する総債権額に対する上告人の債権額の割合から計算すると、上告人は右金員のうち金七九万二、一〇一円を取得する権利がある。よつてその支払を求める」というのである。一方、被上告人は、上告人主張の経緯により上告人より支払を受けた金八六万四、三〇一円については既に被上告人において、これを債務者なる前記訴外会社に返還すべき債務と、被上告人の訴外会社に対して有する債権と相殺したから、最早上告人に分配すべき余地はない、と主張した。これに対し原審は被上告人の右主張を認容したのである。
 よつて案ずるに、詐害行為の取消は、総債権者の利益のためにその効力を生ずる(民法四二五条)。すなわち、取消権の行使により、受益者又は転得者から取戻された財産又はこれに代る価格賠償は、債務者の一般財産に回復されたものとして、総債権者において平等の割合で弁済を受け得るものとなるのであり、取消債権者がこれにつき優先弁済を受ける権利を取得するものではない。このことは取消債権者が取消権行使により財産又は価格賠償を自己に引渡すべきことを請求し、よつてその引渡を受けた場合においても変ることはない。しかしながら、債権者が債務者の一般財産から平等の割合で弁済を受け得るというのは、そのための法律上の手続がとられた場合においてであるというにすぎない。従つて上告人の本訴請求にあるように取消債権者が自己に価格賠償の引渡を受けた場合、他の債権者は取消債権者の手中に入つた右取戻物の上に当然に総債権者と平等の割合による現実の権利を取得するものではない。また、取消債権者は自己に引渡を受けた右取戻物を債務者の一般財産に回復されたものとして取扱うべきであることは当然であるが、それ以上に、自己が分配者となつて他の債権者の請求に応じ平等の割合による分配を為すべき義務を負うものと解することはできない。そのような義務あるものと解することは、分配の時期、手続等を解釈上明確ならしめる規定を全く欠く法のもとでは、否定するのほかない。以上によれば、上告人の本訴請求は、主張自体失当というべきものであつて、被上告人主張の相殺の適否について判断するまでもなく、上告人の本訴請求は排斥を免れなかつたものである。従つて、上告人の本訴請求を排斥した終局の結論において原判決は正当に帰する。原判決の違法をいう所論は、畢竟、判決に影響を及ぼす法令違反の主張に当らず、本件上告は棄却すべきものである。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    垂   水   克   己
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    石   坂   修   一
            裁判官    五 鬼 上   堅   磐
            裁判官    横   田   正   俊