判例

S41.03.22 第三小法廷・判決 昭和38(オ)322 手附金返還請求(第20巻3号468頁)

判示事項:

双務契約の当事者の一方が債務の履行をしない意思を明らかにした場合と同時履行の抗弁権。

要旨:

双務契約の当事者の一方が自己の債務の履行をしない意思を明確にした場合には、相手方が自己の債務の弁済の提供をしなくても、右当事者の一方は、自己の債務の不履行について履行遅滞の責を免れることをえないものと解するのが相当である。

主    文

     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         

理    由

 上告代理人岡本共次郎の上告理由第一点について。
 所論の点に関する原審の認定は、これに対応する挙示の証拠によつて是認することができ、原判決に所論の違法は認められない。論旨は、ひつきよう、原審が適法にした証拠の取捨判断、事実の認定を非難するに帰し、採るをえない。
 同第二点について。
 所論の点に関する原判示は「上告人が被上告人に本件土地の所有権移転登記に必要な書類を現実に提供したときは、被上告人の上告人に対する本件売買代金債務は、内金一〇〇万円の部分に限り、その履行期が到来する旨の期限を付した」事実を認定した趣旨と解せられるから、論旨は、結局、原審がした事実の認定に対する非難に帰し、上告適法の理由とならない。
 同第三点について。
 双務契約において、当事者の一方が自己の債務の履行をしない意思が明確な場合には、相手方において自己の債務の弁済の提供をしなくても、右当事者の一方は自己の債務の不履行について履行遅滞の責を免れることをえないものと解するのが相当である。
 原審が確定したところによれば、被上告人は、上告人より本件土地及び建物を、代金三〇〇万円、所有権移転登記義務及び代金支払義務の履行期昭和三三年四月三〇日の約で買い受けたところ、上告人は、昭和三三年四月三日、被上告人に債務不履行ありと主張し本件売買契約を解除する旨の意思表示をなし、右売買の目的物である本件建物を第三者に賃貸した。というのである。右事実関係のもとにおいては、上告人において自己の債務の履行をしないことが明確であるというべく、被上告人は、自己の債務の弁済の提供をすることなく、上告人に対しその債務の不履行につき履行遅滞の責を問いうるものというべきである。したがつて、原判決に所論の違法はなく、論旨は採るをえない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    横   田   正   俊
            裁判官    五 鬼 上   堅   磐
            裁判官    柏   原   語   六
            裁判官    田   中   二   郎
            裁判官    下   村   三   郎