判例

S44.07.10 第一小法廷・判決 昭和41(オ)805 責任役員等確認請求(第23巻8号1423頁)

判示事項:

一、宗教法人の代表役員および責任役員の地位にあることの確認を求める訴と確認の利益

二、上告審における不服申立の範囲の拡張

要旨:

一、宗教法人の代表役員および責任役員の地位にあることの確認を求める訴は、当該宗教法人を相手方としないかぎり、確認の利益がない。

二、控訴判決に対して適法な上告があつた場合においては、当初不服申立の範囲を控訴判決の一部に限定したときでも、上告人は、上告理由書提出期間内においては、右不服申立の範囲を拡張することができる。



主    文

     被上告人の上告人らに対する請求中、被上告人が宗教法人慈照寺の代表役員および責任役員の地位にあることの確認を求める部分につき、原判決を破棄し、第一審判決を取り消す。
     右部分につき、被上告人の訴を却下する。
     その余の本件上告を棄却する。
     訴訟費用中、前項に関する上告費用は上告人らの負担とし、その余の訴訟の総費用は被上告人の負担とする。
         

理    由

 上告代理人福田浩、同下飯坂潤夫、同岡本梅次郎の上告理由第一について。
 被上告人は、本訴において、宗教法人慈照寺を相手方とすることなく、上告人らに対し、被上告人が同宗教法人の代表役員および責任役員の地位にあることの確認を求めている。しかし、このように、法人を当事者とすることなく、当該法人の理事者たる地位の確認を求める訴を提起することは、たとえ請求を認容する判決が得られても、その効力が当該法人に及ばず、同法人との間では何人も右判決に反する法律関係を主張することを妨げられないから、右理事者の地位をめぐる関係当事者間の紛争を根本的に解決する手段として有効適切な方法とは認められず、したがつて、このような訴は、即時確定の利益を欠き、不適法な訴として却下を免れないことは、当裁判所の判例の趣旨とするところである(最高裁昭和三九年(オ)第五五四号同四二年二月一〇日第二小法廷判決民集二一巻一号一一二頁、同三九年(オ)第一四三五号同四三年一二月二四日第三小法廷判決裁判集民事九三号登載予定参照)。法人の理事者が、当該法人を相手方として、理事者たる地位の確認を訴求する場合にあつては、その請求を認容する確定判決により、その者が当該法人との間においてその執行機関としての組識法上の地位にあることが確定されるのであるから、事柄の性質上、何人も右権利関係の存在を認めるべきものであり、したがつて、右判決は、対世的効力を有するものといわなければならない。それ故に、法人の理事者がこの種の訴を提起する場合には、当該法人を相手方とすることにより、はじめて右理事者の地位をめぐる関係当事者間の紛争を根本的に解決することができることとなる。
 もつとも、本訴においては、宗教法人慈照寺を包括する宗教法人である上告人臨済宗相国寺派を当事者の一員としているのであり、また、原審の認定事実によれば、慈照寺の代表役員は同上告人管長において任免権を有する同寺の住職の職にある者をもつて充てることとなつているのではあるが、もとより、両宗教法人はそれぞれ別個独立の法人であり、原審が適法に確定した事実によれば、同上告人管長が直接慈照寺の代表役員につき任免権を有するものではなく、同寺の代表役員は同等の住職の職にある者をもつて充てるとする慈照寺規則の定めるところにより、同寺の住職という宗教上の地位に、同寺の代表役員たる法律上の地位が与えられるにすぎないというのであるから、同寺の代表役員および責任役員たる地位は、宗教法人慈照寺における固有の地位であつて、包括宗教法人たる同上告人における地位ではなく、したがつて、同上告人を相手方として慈照寺の代表役員および責任役員であることが確認されたとしても、上告人Aを相手方とする場合と同じく、右の地位をめぐる関係当事者間の紛争を根本的に解決することにはならないのである。
 以上説示のとおり、本訴請求中被上告人が宗教法人慈照寺の代表役員および責任役員の地位にあることの確認を求める部分は、不適法な訴として却下すべきものであるから、論旨は理由があり、原判決は、この部分につき、その余の上告理由について判断するまでもなく破棄を免れず、また本案に関する理由をもつて請求を棄却した第一審判決中同部分を取り消し、右部分につき訴を却下することとする。
 上告代理人下飯坂潤夫、同岡本梅次郎、同福田浩の上告理由第二および同岡本梅次郎、同下飯坂潤夫、同福田浩の上告理由第一について。
 論旨は、要するに、原判決中、被上告人が宗教法人慈照寺の住職であることの確認請求につき訴の利益を欠くとして訴却下をした部分が違法であるから、その破棄を求めるというのである。
 ところで、上告人らは、当初上告状に右請求に関する部分を除き原判決に不服である旨を記載し、上告審における不服申立の範囲を、一たんは、右限度にとどめたのであつたが、後に法定の上告理由書提出期間内に提出された上告理由書において、右不服申立の範囲を拡張し、前記請求部分についても原判決に不服である旨を申し立てたことは記録上明らかである。
 およそ、控訴判決に対して適法な上告があつた場合においては、不服申立の範囲を原判決の一部に限定したときでも、右判決にかかる事件全部について上告審へ移審の効力を生じ、上告人は、上告理由書提出期間内においては攻撃防禦方法を提出できるのであるから、右期間内において右不服申立の範囲を拡張し、その理由を主張することができると解するのを相当とする。したがつて、上告人らの本件不服申立の範囲の拡張は適法である。以下右の点に関する上告理由について判断する。
 被上告人の右請求は、宗教法人慈照寺規則において同寺の住職は、同寺の代表役員および責任役員となることと定められているところから、右代表役員および責任役員たる地位の確認請求のほかに、その前提条件として同寺の住職たる地位の確認を請求するというのである。
 しかしながら、原審が適法に確定した事実によれば、同寺の住職たる地位は、元来、儀式の執行、教義の宣布等宗教的な活動における主宰者たる地位であつて、同寺の管理機関としての法律上の地位ではないというのであるから、住職たる宗教上の地位に与えられる代表役員および責任役員としての法律上の地位ならびにその他の権利義務(たとえば、報酬請求権や寺院建物の使用権など)のすべてを包含するいみにおいて、権利関係の確認を訴求する趣旨であれば格別、右代表役員および責任役員としての法律上の地位の確認請求をすると共に、これとは別個にその前提条件としての住職たる地位の確認を求めるというのは、単に宗教上の地位の確認を求めるにすぎないものであつて、法律上の権利関係の確認を求めるものとはいえず、したがつて、このような訴は、その利益を欠くものとして却下を免れない。
 右と同趣旨の原判決は正当であり、論旨は、ひつきよう、原判決を正解しないか、独自の見解に基づきこれを攻撃するものであつて、採用することができない。
 よつて、その余の上告理由および上告代理人桂辰夫、同箕田正一、同大国正夫の各上告理由については判断の要をみないから、これを省略し、民訴法四〇八条、三九六条、三八四条、九五条、九六条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    長   部   謹   吾
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    松   田   二   郎
            裁判官    岩   田       誠
            裁判官    大   隅   健 一 郎