判例
S54.02.15 第一小法廷・判決 昭和53(オ)925 物件引渡(第33巻1号51頁)(乾燥ネギ事件)
判示事項:
一 構成部分の変動する集合動産と譲渡担保の目的
二 構成部分の変動する集合動産の譲渡担保につき目的物の範囲が特定されているとはいえないとされた事例
要旨:
一 構成部分の変動する集合動産であつても、その種類所在場所及び量的範囲を指定するなどの方法により目的物の範囲が特定される場合には、一個の集合物として譲渡担保の目的となりうる。
二 甲が、継続的倉庫寄託契約に基づき丙に寄託中の食用乾燥ネギフレーク四四トン余りのうち二八トンを乙に対する債務の譲渡担保とすること、乙はこれを売却処分することができることを約し、在庫証明の趣旨で丙が作成した預り証を乙に交付したが、乙も在庫を確認したにとどまり、その後処分のため乙に引き渡された右乾燥ネギフレークの大部分は甲の工場から乙に直送され、残部は甲が丙から受け出して乙に送付したものであるなど判示の事実関係のもとでは、甲が乙に寄託中の右乾燥ネギフレークのうち二八トンを特定して譲渡担保に供したものとはいえない。
主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理 由
上告代理人美村貞夫、同高橋民二郎、同土橋頼光の上告理由第一点及び第二点について
構成部分の変動する集合動産についても、その種類、所在場所及び量的範囲を指定するなどなんらかの方法で目的物の範囲が特定される場合には、一個の集合物として譲渡担保の目的となりうるものと解するのが相当である。
原審が認定したところによれば、(1) 訴外川崎電機株式会社(以下「訴外会社」という。)は、昭和四六年八月二七日その所有する食用乾燥ネギフレーク(以下「乾燥ネギ」という。)のうち二八トンを上告会社に対する一四〇〇万円の債務の譲渡担保として提供すること、上告会社は右ネギをいつでも自由に売却処分することができることを約した、(2) 当時訴外会社は、被上告会社との間に締結した継続的倉庫寄託契約に基づきその所有する乾燥ネギ四四トン三〇三キログラムを被上告会社倉庫に寄託していた、(3) 同日訴外会社から上告会社あて交付された被上告会社作成の冷蔵貨物預証には、「品名青葱フレーク三五〇〇C/S」「数量8kg段ボール四mm」「右貨物正に当方冷蔵庫第No.5No.8No.11No.12号へ入庫しました 出庫の際は必ず本証をご提示願います」と記載されていたが、右預証は在庫証明の趣旨で作成されたものであり、上告会社社員が被上告会社倉庫へ赴いたのも単に在庫の確認のためであつて、目的物の特定のためではなかつた、(4) 上告会社は、前記譲渡担保契約締結前に訴外会社から乾燥ネギ一七・六トンを買い受けたことがあつたが、そのうち八トンは訴外会社三重工場から直接上告会社に送付され、残り九・六トンについては被上告会社の上告会社あて冷蔵貨物預証が差し入れられ、その現実の引渡しとしては、上告会社から訴外会社に指示し、訴外会社がこれを承けて被上告会社から該当数量を受け出し、これを上告会社指定の荷送先に送付する方法によつてすることとされていたところ、本件譲渡担保契約においてもこれと異なる約定がされたわけではなく、右契約締結後訴外会社から上告会社に対し乾燥ネギ二八トンのうちの三トン二四八キログラムが六回にわたり引き渡されたが、うち二トン八四八キログラムは訴外会社三重工場から上告会社に直送され、うち四〇〇キログラムは、さきの場合と同様、上告会社の指示により訴外会社が被上告会社から受け出して上告会社指定の荷送先に送付したものであつた、というのである。右の認定は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、右事実関係のもとにおいては、末だ訴外会社が上告会社に対し被上告会社に寄託中の乾燥ネギのうち二八トンを特定して譲渡担保に供したものとは認められないとした原審の判断は、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。
同第三点及び第四点について
所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
最高裁判所第一小法廷
裁判長裁判官 本 山 亨
裁判官 団 藤 重 光
裁判官 藤 崎 萬 里
裁判官 戸 田 弘
裁判官 中 村 治 朗