判例
S55.01.11 第三小法廷・判決 昭和51(オ)958 罷免無効確認、損害賠償、不動産等引渡(第34巻1号1頁)
判示事項:
一 住職たる地位の存否の確認を求める訴と訴の適否
二 特定人の住職たる地位の存否が同人の具体的な権利又は法律関係をめぐる紛争につき請求の当否を判定する前提問題となつている場合と住職たる地位の存否についての裁判所の審判権
要旨:
一 寺院の住職たる地位の確認を求める訴が単に宗教上の地位についてその存否の確認を求めるものであるにすぎない場合には、右住職たる地位が宗教法人たる寺院の代表役員たりうる基本資格となるものであるときでも、右訴は、確認の訴の対象たるべき適格を欠くものに対する訴として不適法である。
二 特定人の住職たる地位の存否が他の具体的権利又は法律関係をめぐる紛争につき請求の当否を判定する前提問題となつている場合には、裁判所は、その判断の内容が宗教上の教義の解釈にわたる場合でない限り、右住職たる地位の存否について審判権を有する。
主 文
上告人の被上告人宗教法人曹洞宗及び同宗教法人種徳寺に対する上告を棄却する。
上告人のその余の被上告人らに対する上告を却下する。
上告費用は上告人の負担とする。
理 由
上告代理人浅野繁、同広江武彦の上告理由第一、一について
上告人が原審において提起した新訴は、上告人と被上告人宗教法人曹洞宗(以下「被上告人曹洞宗」という。)との間において上告人が被上告人宗教法人種徳寺(以下「被上告人種徳寺」という。)の住職たる地位にあることの確認を求める、というにあるが、原審の適法に確定したところによれば、曹洞宗においては、寺院の住職は、寺院の葬儀、法要その他の仏事をつかさどり、かつ、教義を宣布するなどの宗教的活動における主宰者たる地位を占めるにとどまるというのであり、また、原判示によれば、種徳寺の住職が住職たる地位に基づいて宗教的活動の主宰者たる地位以外に独自に財産的活動をすることのできる権限を有するものであることは上告人の主張・立証しないところであるというのであつて、この認定判断は本件記録に徴し是認し得ないものではない。このような事実関係及び訴訟の経緯に照らせば、上告人の新訴は、ひつきよう、単に宗教上の地位についてその存否の確認を求めるにすぎないものであつて、具体的な権利又は法律関係の存否について確認を求めるものとはいえないから、かかる訴は確認の訴の対象となるべき適格を欠くものに対する訴として不適法であるというべきである(最高裁判所昭和四一年(オ)第八〇五号同四四年七月一〇日第一小法廷判決・民集二三巻八号一四二三頁参照)。もつとも、上告人は、被上告人曹洞宗においては、住職たる地位と代表役員たる地位とが不即不離の関係にあり、種徳寺の住職たる地位は宗教法人種徳寺の代表役員たりうる基本資格となるものであるということをもつて、住職の地位が確認の訴の対象となりうるもののように主張するが、両者の間にそのような関係があるからといつて右訴が適法となるものではない。
したがつて、結局、右と同旨に出て上告人の新訴を不適法として却下した原判決は正当である。論旨は、原審において主張しない事実関係を前提とするか、又は独自の見解に基づいて原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。
同第一、二及び第二(一)について
所論は、要するに、原審が上告人の新訴については住職たる地位が宗教上の地位であるにすぎないことを理由としてその訴を不適法として却下しながら、これと併合して審理された被上告人種徳寺の上告人に対する不動産等引渡請求事件については曹洞宗管長のした住職罷免の行為をもつて法律的紛争であるとして取り扱い、本案の判断を示したのは、理由齟齬の違法を犯すものである、というにある。
しかしながら、論旨指摘の原審の各判断は、互いに当事者を異にし、訴訟物をも異にする別個の事件について示されたものであるから、その間に民訴法三九五条一項六号所定の理由齟齬の違法を生ずる余地はなく、したがつて、論旨はこの点において理由がない。のみならず、被上告人種徳寺の上告人に対する右不動産等引渡請求事件は、種徳寺の住職たる地位にあつた上告人がその包括団体である曹洞宗の管長によつて右住職たる地位を罷免されたことにより右事件第一審判決別紙物件目録記載の土地、建物及び動産に対する占有権原を喪失したことを理由として、所有権に基づき右各物件の引渡を求めるものであるから、上告人が住職たる地位を有するか否かは、右事件における被上告人種徳寺の請求の当否を判断するについてその前提問題となるものであるところ、住職たる地位それ自体は宗教上の地位にすぎないからその存否自体の確認を求めることが許されないことは前記のとおりであるが、他に具体的な権利又は法律関係をめぐる紛争があり、その当否を判定する前提問題として特定人につき住職たる地位の存否を判断する必要がある場合には、その判断の内容が宗教上の教義の解釈にわたるものであるような場合は格別、そうでない限り、その地位の存否、すなわち選任ないし罷免の適否について、裁判所が審判権を有するものと解すべきであり、このように解することと住職たる地位の存否それ自体について確認の訴を許さないこととの間にはなんらの矛盾もないのである。所論は、独自の見解に基づいて原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。
同第二(二)について
原審の確定した事実関係のもとにおいて曹洞宗管長のした上告人の種徳寺住職たる地位を罷免する処分が有効であるとした原審の判断は、正当として是認するに足り、したがつて、右罷免処分が違法、無効であることを前提とする所論違憲の主張は、失当である。論旨は、採用することができない。
被上告人田静哉、同鈴木隆造、同鈴木哲に対する上告について
本件上告について提出された上告状及び上告理由書には右被上告人らに対する上告理由の記載がないから、右被上告人らについては適法な上告理由書提出期間内に上告理由書の提出がなかつたことに帰する。してみれば、右被上告人らに対する上告は、いずれも不適法であるから、これを却下すべきである。
よつて、民訴法四〇一条、三九九条ノ三、三九九条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
最高裁判所第三小法廷
裁判長裁判官 辻 正 己
裁判官 江 里 口 清 雄
裁判官 環 昌 一
裁判官 横 井 大 三