判例
S56.04.16 第一小法廷・決定 昭和55(あ)1351 道路交通法違反、私文書偽造、同行使(第35巻3号107頁)
判示事項:
交通切符又は交通反則切符中の供述書を事前の承諾を得て他人名義で作成した場合と私文書偽造罪の成否
要旨:
交通切符又は交通反則切符中の供述書を他人の名義で作成した場合は、名義人の事前の承諾があつても、私文書偽造罪が成立する。
主 文
本件上告を棄却する。
理 由
弁護人渕ノ上忠義の上告趣意は、事実誤認、単なる法令違反、量刑不当の主張であつて、刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。
所論にかんがみ職権をもつて判断するに、被告人がAの名義で作成した本件文書は、いわゆる交通切符又は交通反則切符中の供述書であり、「私が上記違反をしたことは相違ありません。事情は次のとおりであります。」という不動文字が印刷されていて、その末尾に署名すべきこととされているものである。このような供述書は、その性質上、違反者が他人の名義でこれを作成することは、たとい名義人の承諾があつても、法の許すところではないというべきである。そうすると、前示Aがその名義の使用を事前に承諾していたという事実は、被告人の本件所為につき私文書偽造罪の成立を認めることの妨げにはならないと解すべきであり、これと同旨の原判断は相当である。
よつて、刑訴法四一四条、三八六条一項三号により、主文のとおり決定する。
この決定は、裁判官谷口正孝の補足意見があるほか、裁判官全員一致の意見によるものである。
裁判官谷口正孝の補足意見は、次のとおりである。
私は、本件供述書は、その性質上作成名義人たる署名者本人の自署を必要とする文書であると考える。法律上もそうなつている(刑訴法三二二条、刑訴規則六一条二項参照)。従つて、他人名義でこれを作成することは許されず、他人の同意、承諾を容れる余地のない文書というべきである。
されば、被告人がAの承諾を得ていたにしても、同人名義を用いて本件供述書を作成することは、法律上許されないところであつて、作成名義を冒用したものとして、私文書偽造罪を構成するものと考える。
昭和五六年四月一六日
最高裁判所第一小法廷
裁判長裁判官 団 藤 重 光
裁判官 藤 ア 萬 里
裁判官 本 山 亨
裁判官 中 村 治 朗
裁判官 谷 口 正 孝