判例
S57.05.26 第二小法廷・決定 昭和56(あ)1131 暴力行為等処罰に関する法律違反、建造物侵入(第36巻5号609頁)
判示事項:
使用者側が団体交渉の申入れに応じない場合と刑法三六条一項という「急迫不正ノ侵害」
要旨:
使用者側が団体交渉の申入れに応じないという単なる不作為が存するにすぎない場合には、いまだ刑法三六条一項にいう「急迫不正ノ侵害」があるとはいえない。
主 文
本件上告を棄却する。
理 由
弁護人堤賢二郎の上告趣意のうち、判例違反をいう点は、原判決が、正当防衛の主張を排斥するに際し、被告人らの団体交渉の申入れを拒否した長崎放送局長は、右交渉申入れにかかる事項につき団体交渉適格を欠く旨判示した点が、当裁判所の判例(昭和五〇年(行ツ)第四一号同五一年六月三日第一小法廷判決・裁判集民事一一八号三一頁)に相反するというのである。しかし、本件のように、使用者側が団体交渉の申入れに応じないという単なる不作為が存するにすぎない場合には、いまだ刑法三六条一項にいう「急迫不正の侵害」があるということはできないと解するのが相当であつて、同局長に団体交渉適格があると否とを問わず、本件被告人の行為を正当防衛行為にあたるとみる余地はないから、所論は、原判決の結論に影響のない事項について判例違反をいうものとして適法な上告理由にあたらない。同弁護人のその余の上告趣意は、違憲をいうがごとき点を含め、実質は、事実誤認、単なる法令違反の主張であつて、適法な上告理由にあたらない。
弁護人井上正治の上告趣意は、憲法二八条違反を}うが、実質は単なる法令違反の主張であつて、適法な上告理由にあたらない。よつて、刑訴法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見、主文のとおり決定する。
昭和五七年五月二六日
最高裁判所第二小法廷
裁判長裁判官 木 下 忠 良
裁判官 鹽 野 宜 慶
裁判官 宮 ア 梧 一
裁判官 大 橋 進