判例
S59.07.03 第三小法廷・決定 昭和58(あ)1761 殺人、殺人未遂(第38巻8号2783頁)
判示事項:
精神分裂病者と責任能力
要旨:
被告人が犯行当時精神分裂病に罹患していたからといつて、そのことだけで直ちに被告人が心神喪失の状態にあつたとされるものではなく、その責任能力の有無・程度は、被告人の犯行当時の病状、犯行前の生活状態、犯行の動機・態様等を総合して判定すべきである。
主 文
本件上告を棄却する。
理 由
被告人本人の上告趣意のうち、憲法三六条、九九条、九八条二項違反をいう点は、記録を調べても、被告人が取調警察官から暴行等を受けたことを疑わせる証跡は認められないから、所論違憲の主張は前提を欠き、その余は、事実誤認、単なる法令違反の主張であり、弁護人間運吉の上告趣意は、事実誤認、単なる法令違反の主張であつて、いずれも刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。
なお、被告人の精神状態が刑法三九条にいう心神喪失又は心神耗弱に該当するかどうかは法律判断であるから専ら裁判所の判断に委ねられているのであつて、原判決が、所論精神鑑定書(鑑定人に対する証人尋問調書を含む。)の結論の部分に被告人が犯行当時心神喪失の情況にあつた旨の記載があるのにその部分を採用せず、右鑑定書全体の記載内容とその余の精神鑑定の結果、並びに記録により認められる被告人の犯行当時の病状、犯行前の生活状態、犯行の動機・態様等を総合して、被告人が本件犯行当時精神分裂病の影響により心神耗弱の状態にあつたと認定したのは、正当として是認することができる。
よつて、刑訴法四一四条、三八六条一項三号、一八一条一項但書により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。
昭和五九年七月三日
最高裁判所第三小法廷
裁判長裁判官 伊 藤 正 己
裁判官 木 戸 口 久 治
裁判官 安 岡 滿 彦
裁判官 長 島 敦