判例
S60.05.23 第一小法廷・判決 昭和56(オ)1175 配当異議(第39巻4号940頁)
判示事項:
一 共同抵当の目的である債務者所有の甲不動産及び物上保証人所有の乙不動産に債権者を異にする後順位抵当権が設定され乙不動産が先に競売された場合に甲不動産から弁済を受けるときにおける甲不動産の後順位抵当権者と乙不動産の後順位抵当権者の優劣
二 物上保証人がその所有の不動産及び債務者所有の不動産につき共同抵当権を有する債権者との間で代位権不行使の特約をした場合と物上保証人所有の不動産の後順位抵当権者の優先弁済を受ける権利
三 債権の一部につき代位弁済がされた場合の競落代金の配当についての債権者と代位弁済者との優劣
要旨:
一 共同抵当の目的である債務者所有の甲不動産及び物上保証人所有の乙不動産にそれぞれ債権者を異にする後順位抵当権が設定されている場合において、乙不動産が先に競売されて一番抵当権者が弁済を受けたときは、乙不動産の後順位抵当権者は、物上保証人に移転した甲不動産に対する一番抵当権から甲不動産の後順位抵当権者に優先して弁済を受けることができる。
二 物上保証人が、その所有の不動産及び債務者所有の不動産につき共同抵当権を有する債権者との間で、債権者の同意がない限り弁済等により取得する権利を行使しない旨の特約をしても、物上保証人所有の不動産の後順位抵当権者は、物上保証人が弁済等により代位取得する抵当権から優先弁済を受ける権利を失わない。
三 債権の一部につき代位弁済がされた場合、右債権を被担保債権とする抵当権の実行による競落代金の配当については、代位弁済者は債権者に劣後する。
主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理 由
上告代理人三島卓郎の上告理由第一について
原審の適法に確定したところによると、(一) 上告人は、訴外新栄観光開発株式会社(以下「新栄観光」という。)に対する債権(以下「上告人の被担保債権」という。)を担保するため、新栄観光所有の建物及び第三者所有の不動産(以下、併せて「本件建物等」という。)並びに訴外A所有の本件土地及び株式会社大一商産(以下「大一商産」という。)所有の建物(以下、併せて「本件土地等」という。)を共同抵当の目的として、その各所有者から、極度額を一億五五〇〇万円とする第一順位の根抵当権の設定を受け、次いで極度額を二億七〇〇〇万円とする本件建物等について順位二番、本件土地等について順位三番の根抵当権を、さらにその後極度額を三億二五〇〇万円とする本件建物等について順位三番、本件土地等について順位四番の根抵当権の各設定を受けた、(二) 被上告人は、Aほか二名を連帯債務者として七七九万円を貸し付け、これに基づく債権(利息及び遅延損害金を含む。以下「被上告人の被担保債権」という。)を担保するため、A及び大一商産からその各所有の本件土地等について第二順位の抵当権の設定を受けた、(三) Aは、上告人と前記各根抵当権設定契約を締結する際、物上保証人が弁済等によつて上告人から代位によつて取得する権利は、上告人と新栄観光の取引が継続している限り、上告人の同意がなければ行使しない旨合意した、(四) 上告人は、第一順位の根抵当権に基づき、本件各不動産の競売の申立をしたところ、物上保証人A及び同大一商産所有の本件土地等が競売され、その競落代金から、上告人は、上告人の被担保債権の元本七億一九八六万〇八二八円及び損害金四億一五〇三万〇八七一円のうち、元本につき一四七〇万三三八〇円、損害金につき三一一万六〇〇〇円合計一七八一万九三八〇円の弁済を受け、次いで新栄観光ら所有の本件建物等について競売され、代金六億円が納付された、(五) 仙台地方裁判所は、本件建物等につき上告人の有する第二、第三順位の根抵当権が、本件土地等について被上告人の有する第二順位の抵当権に劣後するものとして、上告人に対して上告人の被担保債権の元金につき一億二六二七万四六二〇円を、次いで被上告人に対して被上告人の被担保債権の元金につき七七九万円、損害金につき三一一万六〇〇〇円、合計一〇九〇万六〇〇〇円を、第三順位として上告人の被担保債権の元金につき四億五七五九万〇八五〇円を交付する旨の交付表を作成した、(六) 上告人は、本件建物等につき上告人の有する根抵当権は被上告人の本件土地等についての抵当権に優先するものとして異議を述べた、というのである。
ところで共同根抵当の目的である債務者所有の不動産と物上保証人所有の不動産にそれぞれ債権者を異にする後順位抵当権が設定されている場合において、物上保証人所有の不動産について先に競売がされ、その競落代金の交付により一番抵当権者が弁済を受けたときは、物上保証人は債務者に対して求償権を取得するとともに、代位により債務者所有の不動産に対する一番抵当権を取得するが、物上保証人所有の不動産についての後順位抵当権者(以下「後順位抵当権者」という。)は物上保証人に移転した右抵当権から債務者所有の不動産についての後順位抵当権者に優先して弁済を受けることができるものと解するのが相当である(最高裁昭和五〇年(オ)第一九六号昭和五三年七月四日第三小法廷判決・民集三二巻五号七八五頁参照)。右の場合において、債務者所有の不動産と物上保証人所有の不動産について共同根抵当権を有する債権者が物上保証人と根抵当権設定契約を締結するにあたり、物上保証人が弁済等によつて取得する権利は、債権者と債務者との取引が継続している限り債権者の同意がなければ行使しない旨の特約をしても、かかる特約は、後順位抵当権者が物上保証人の取得した抵当権から優先弁済を受ける権利を左右するものではないといわなければならない。けだし、後順位抵当権者が物上保証人の取得した一番抵当権から優先して弁済を受けることができるのは、債権者が物上保証人所有の不動産に対する抵当権を実行して当該債権の弁済を受けたことにより、物上保証人が当然に債権者に代位し、それに伴い、後順位抵当権者が物上保証人の取得した一番抵当権にあたかも物上代位するようにこれを行使しうることによるものであるが、右特約は、物上保証人が弁済等をしたときに債権者の意思に反して独自に抵当権等の実行をすることを禁止するにとどまり、すでに債権者の申立によつて競売手続が行われている場合において後順位抵当権者の右のような権利を消滅させる効力を有するものとは解されないからである。以上と同旨の原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。
同第二について
債権者が物上保証人の設定にかかる抵当権の実行によつて債権の一部の満足を得た場合、物上保証人は、民法五〇二条一項の規定により、債権者と共に債権者の有する抵当権を行使することができるが、この抵当権が実行されたときには、その代金の配当については債権者に優先されると解するのが相当である。けだし、弁済による代位は代位弁済者が債務者に対して取得する求償権を確保するための制度であり、そのために債権者が不利益を被ることを予定するものではなく、この担保権が実行された場合における競落代金の配当について債権者の利益を害するいわれはないからである。
これを本件についてみると、原審の適法に確定した前記事実関係のもとにおいては、物上保証人であるA及び大一商産は、その各所有の本件土地等の競売により、第一順位の根抵当権者としての上告人がその被担保債権につき弁済を受けた一七八一万九三八〇円の範囲内で、上告人が新栄観光ら所有の本件建物等に対して有する一番抵当権を代位によつて取得し、その一番抵当権から、本件土地等の第二順位抵当権者である被上告人並びに第三順位及び第四順位の根抵当権者である上告人は、それぞれの順位に従つて優先弁済を受けることができるところ、本件建物等の競落代金の配当にあたつては、上告人の残債権について上告人に優先されるから、本件建物等の競落代金六億円より競売手続費用を控除した残額五億九四七七万一四七〇円のうち順位一番の根抵当権に配当されるべき一億五五〇〇万円については、上告人が一億三七一八万〇六二〇円(上告人の順位一番の根抵当権の極度額一億五五〇〇万円から上告人が弁済を受けた一七八一万九三八〇円を控除した残額)の交付を受け、次いで、右一七八一万九三八〇円について被上告人が一〇九〇万六〇〇〇円、上告人が残余の六九一万三三八〇円の交付を受けるべきものであり、さらに上告人は本件建物等の第二順位及び第三順位の根抵当権者として残額四億三九七七万一四七〇円の交付を受けるべきものである。したがつて、以上と異なる原審の判断は違法であり、仙台地方裁判所の作成した交付表は右のとおり変更されるべきである。しかしながら、交付表が右のとおり変更されるべきであるとしても、被上告人の配当額には変更がなく、上告人は右配当額から配当を受けることができないから、上告人には右の配当につき異議を述べる利益がなく、したがつて、上告人の本訴請求は理由のないことが明らかであるから、これを排斥した原審の判断は結論において正当というべきである。論旨は、採用の限りでない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
最高裁判所第一小法廷
裁判長裁判官 矢 口 洪 一
裁判官 谷 口 正 孝
裁判官 和 田 誠 一
裁判官 角 田 禮 次 郎
裁判官 島 益 郎